はじめに
近年、デジタル技術の進化によりビジネスや社会の様相は大きく変化しています。これを背景に、国や地方自治体では地方産業を支える中小企業においてもデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進、魅力的な企業を育成し、若者の首都圏への流出を食い止める持続的な成長を目指そうとする動きが広がっていますが、地方の中小企業の経営者の中にはよく分からない技術の導入に躊躇してしまい、なかなかDX化を進めることができない例も珍しくありません。本稿では、長野県松本市を事例に地方自治体が地元企業のDX化支援に果たす役割について考えていきたいと思います。
段階を踏んでマインドを作り出す 松本市の事例
松本市では令和4年(2022年)に内閣府・内閣官房のデジタル田園都市国家構想推進交付金 (デジタル実装タイプ ( TYPE1)の交付を受けて、「資本主義の変貌に適応するための地元企業競争力UPプロジェクト」がスタートしました。背景にあったのは長野県内の企業におけるDX化への進展が遅れていることがあります。令和2年(2020年)度の長野県雇用環境実態調査報告書では、約9割の企業がDX化の第一歩ともいえるテレワークの導入さえしていないと回答するなど、県内ではDX化が進んでいないという状況でした。そこで松本市は、企業が取り組みやすい初期段階のデジタル化に重点を置き、"電子申請サービスを利用した市への支払い請求"、"オンライン会議"、"テレワーク"の3項目の実装を促進し、拠点施設を設けるほかセミナーや個別相談などの伴走型支援を軸に事業を展開しました。
松本市では段階的に、地元企業にDX化に向けた機運を高めてもらおうと事業を策定。まず支払請求の電子化など企業のDX・デジタル化を題材にセミナーを開催し、地元企業からの関心を引き、合わせて個別相談窓口を設けて伴走的な支援を講じていきます。最終的には地元IT企業とマッチングを行い、機器の整備や実際の運用に向けた環境づくりを後押しし、さらに成功事例を発信し、横展開を目指す流れを生み出しました。
また、本事業はNTT東日本長野支店に委託され、同社のグループ企業で中小企業や地方自治体のDX推進コンサルティング、DX推進のための人材・ノウハウ提供などのスペシャリストである「NTT DXパートナー」と連携してデジタル化推進セミナーや個別相談会を開催するなど、DX化に踏み出すことができなかった経営者も取り組みやすくなるようなユーザー目線に立った仕掛けが施されているのが特徴です。
まとめ
地方自治体によるDX化支援は、地域の持続的な成長と市民の生活向上に向けた重要な取り組みとなります。課題は多いものの、デジタル技術の進化により新たな可能性が広がりつつあります。ただ地域によってDX化のレベルは様々であり、松本市のように、地域の実情に合わせた取り組みの進め方が重要です。グローカル社では、このような自治体の情報を横断して一括検索できるツール「G-Finder」を活用した調査サービス「G-Finderレポート」を提供しています。自治体への提案や入札参加をご検討の方はお気軽にお問い合わせください。
執筆者 グローカル編集部
地方創生コンサルティング、SaaS/レポートサービスを通して地域活性化を支援する、グローカル株式会社の編集部。地域活性化を目指す事例や自治体・地域企業/中小企業のDX化に向けた取り組み、国の交付金・補助金の活用例を調査・研究し、ジャーナルを執筆しています。
グローカルは、国内全体・海外に展開する地方発の事業をつくり、自立的・持続的に成長する地域経済づくりに貢献します。
出典:
<松本市HP:デジタル実装タイプTYPE1実施計画>
<松本市HP:想定する取組内容(工程)とスケジュール>
<NTT DX パートナーHP:⾧野県松本市のデジタル実装促進事業へ参画>