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自治体主導のスマート畜産事例 鹿児島県肝付町の取り組み

はじめに

 日本の多くの地方部において基幹産業となっている農業や畜産、漁業といった一次産業。日本の食卓を担う重要な産業ですが、一次産業において高齢化などの影響で、担い手不足に陥っていると指摘されて久しいです。この担い手不足を解消するため一次産業にIoTやロボットなどの最新のデジタル技術を導入する「スマート農業」、「スマート畜産」、「スマート漁業」と呼ばれる取り組みが全国各地で盛り上がっています。


 本ジャーナルでも、北海道豊富町のドローンを活用した牛追いの事例岐阜県のスマート農業推進体制を取り上げてきました。今回は鹿児島県肝付町の取り組みについて見ていきたいと思います。


肝付町の取り組み

 肝付町は鹿児島の南東部に突き出た大隅半島の東部に位置する自治体で、肝属郡に属しています。平成17年(2005年)に高山町・内之浦町の2町が合併することで誕生し、令和5年(2023年)8月の時点で約13,000人の人口を抱えています。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の内之浦宇宙空間観測所が立地し、ロケットの打ち上げが行われていることから「ロケットの町」として知られています。


 この肝付町は平成30年(2018年)の時点で、肉用牛7070頭、豚は33,500頭(肝付町農業振興計画 第3次より)と人口を大きく上回る頭数を飼育している、畜産業が非常に盛んな地域です。しかし、他の地方の例に漏れず高齢化が進行しており、令和5年(2023年)7月には高齢化率は43.0%に達しています。畜産業の担い手の高齢化も進む中で、生産基盤の維持・強化をするためにICTの利活用が求められていました。また一部の生産者は、表計算ソフトやスマート漁業のシステムを導入していましたが、町や県、農協などとデータの共有をすることができず、データを営農指導に活かすことが出来ていませんでした。


 そこで肝付町は令和元年(2019年)から、鹿児島県(大隅地域振興局)、JA 鹿児島きもつき、株式会社NTTドコモ、株式会社ファームノートと一体となって、国内初となる自治体主導でのICTを活用した畜産生産者の労働力軽減などを図る社会実験を実施しました。この取り組みでは、生産者をグループ化してアプリケーションを実装。これまで個人利用に留まっていたデータを関係機関で共有し、営農指導に生かそうという取り組みです。


 具体的な内容を見ていきましょう。これまで紙や黒板などでアナログ管理をしていた繁殖母牛の個体情報をファームノート社のサービスであるクラウド牛群管理システム「Farmnote」を導入することで一元管理することができるようになり、時間と場所を選ばずデータ共有などが可能になりました。また肝付町や農協・県普及員などの関係機関も牧場データへアクセスができ、リアルタイムでの技術指導を実現しました。また、肉用牛繁殖においては目視による個体管理が行われてきましたが、観察労力の削減と発情・疾病などの兆候を見逃してしまうことが課題となっていました。


 そこで、ファームノート社が提供している牛向けIoTセンサー「Farmnote Color」、クラウド牛群管理システム「Farmnote」を実装。雌牛の発情発見や疾病の疑いがある兆候を検知するなど、遠隔でリアルタイムの個体管理が可能となり、生産性向上や所得向上、地域経済の活性化が期待されており、実際にこれらのシステムを導入することで収益減少に直結する発情見逃しはほぼゼロになり、発情兆候を観察するための労力も大幅に低減することを達成しました。


 このプロジェクトは、総務省の「ICT地域活性化大賞2020」にて奨励賞を受賞。肝付町議会の令和3年(2021年)12月定例会で、「自治体主導によるスマート畜産として紹介されたことを機に、視察研修も増えております。」と報告されており、全国から注目が集まっています。

まとめ

 日本の地方自治体は、スマート農業の推進に積極的に取り組み、農業の持続可能性と発展に貢献する姿勢が求められています。今後、肝付町のような取り組みを新たに始める自治体が数多く現れる可能性が考えられるでしょう。


 グローカル社では、自治体の情報を横断して一括検索できるツール「g-Finder」を活用したトレンドを見逃さない調査サービス「g-Finderレポート」を提供しています。自治体に関する調査や、自治体への提案・入札参加をご検討の方はお気軽にお問い合わせください。


出典:

<肝付町HP:肝付町農業振興計画(第 3 次)>

<肝付町HP:肝付町「スマート畜産」実装プロジェクトの実施について>

<肝付町HP:肝付町議会 肝付町 令和3年12月定例会(第4回)12月09日-03号>

<総務省HP:国内初!自治体主導による「スマート畜産」>

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