はじめに
近年、急速なデジタル技術の進展によって、私たちの生活や社会の在り方が大きく変わる「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」が注目を集めています。このデジタル革命の潮流は、行政サービスの提供においても大きな変革をもたらしています。日本の地方自治体においても、AI(人工知能)を活用した光学文字認識機能である「AI-OCR」や作成したシナリオに基づいて動作するロボットにより業務を自動化する「RPA(Robotic Process Automation)」などを活用して、業務を効率化する事例が数多く見受けられるようになってきました。本ジャーナルでも、広島県広島市や新潟県長岡市、東京都武蔵野市の事例について取り上げてきました。今回は大阪府豊中市の取り組みについて見ていきたいと思います。
豊中市の取り組み
豊中市は大阪府北部の豊能地域に立地する中核都市で、令和4年(2022年)の時点で大阪府の中でも4番目の約400,000人の人口を有する都市です。府庁所在地である大阪市と隣接し、阪急電鉄や北大阪急行電鉄が通り大阪梅田まで乗り換え不要で12分ほどでアクセスできる交通の便の良さからベッドタウンとしても人気のある都市です。
この豊中市は「とよなかデジタル・ガバメント戦略」を策定して、DX化の推進を推し進めてきました。令和5年(2023年)度から新たに始まった後継戦略である「とよなかデジタル・ガバメント戦略2.0」でも、取り組む10のテーマの1つとして「既存業務サービスの見直し・拡充」が設けられ、AI-OCRやRPAなどを含めた「これまで導入を行った各種業務アプリ・システムについて、業務フローの見直しも含めチェックを行い、さらなる業務効率化や生産性の向上をつうじた市民サービスの充実を推進します。」と方針を示しています。また、豊中市では令和2年(2020年)に西日本電信電話(NTT西日本)株式会社と連携協定を締結し、ICTやデジタル技術を活用した行政改革に取り組んでいます。
続いて、具体的な取り組みについて見ていきたいと思います。豊中市では令和元年(2019年)度からRPAシナリオの作成、効果測定、ルール整備などの試⾏導⼊を開始しました。翌令和2年(2020年)から、法人市民税異動届データ入力業務や法人市民税申告書印刷業務などの25業務でAI-OCR・RPAを本格導入しました。RPAソフトウェアはNTTグループが開発した「WinActor」、AI-OCRには「DX Suite」を使用しました。令和3年(2021年)、令和4年(2022年)にも活用する業務を順次拡大し、令和5年(2023年)の3月末までに77業務で利用されています。この77業務の合計で年間約10,400時間もの業務時間の削減効果があったとしています。
今後、行政手続のオンライン化で申請をデータで受け取れるようになったため、オンライン申請の件数が多い業務についてAI-OCR・RPAなどの導⼊を積極的に進めていき、普及の啓発活動を今後も継続したいとしています。また市としてAI-OCRやRPAの技術を習得した⼈材を確保し続ける必要性があるとして、デジタル⼈材の確保・育成に今後さらに⼒を注いでいく必要があると分析しています。
まとめ
地方自治体のDX化は、地域の課題解決や住民の生活の向上を目指す重要な取り組みです。総務省によると、AI・RPAを業務に活用している自治体は令和4年(2022年)度の時点で、都道府県で94%、指定都市では100%まで進んでいる一方、その他の市区町村は36%に留まっており、AI-OCRやRPAなどを使った取り組みは今後も広がりを見せることが予想されます。
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執筆者 グローカル編集部
地方創生コンサルティング、SaaS/レポートサービスを通して地域活性化を支援する、グローカル株式会社の編集部。地域活性化を目指す事例や自治体・地域企業/中小企業のDX化に向けた取り組み、国の交付金・補助金の活用例を調査・研究し、ジャーナルを執筆しています。
グローカルは、国内全体・海外に展開する地方発の事業をつくり、自立的・持続的に成長する地域経済づくりに貢献します。
出典:
豊中市HP:とよなかデジタル・ガバメント戦略2.0
豊中市HP:NTT西日本とのデジタル・ガバメントの実現に向けた連携協定
総務省HP:29 77業務にRPA・AI-OCRを活用し、年間約10,400時間を削減 【大阪府豊中市】
株式会社NTTデータHP:大阪府豊中市 | 「デジタル・ガバメント戦略」を推進し、 職員の負荷軽減と住民サービス向上を目指す
総務省HP:自治体におけるAI・RPA活用促進