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わな監視システムで負担削減 福岡県飯塚市のスマート農業事例



はじめに

 近年、急速なデジタル技術の進化により農業分野でも新たな変革が起きています。その中でも注目されるのが「スマート農業」です。スマート農業は、ドローンやロボットなどのテクノロジーを農業に利活用することで、生産性の向上や持続可能な農業の実現を目指す取り組みです。このスマート農業を積極的に取り入れて、担い手不足の解消や生産性の向上を目指す地方自治体も現れています。本ジャーナルでも、これまで岐阜県でのスマート農業推進計画に基づく取り組みなどについて取り上げてきました。今回は有害鳥獣を捕獲する”わな”にIoTを活用した福岡県飯塚市の取り組みについて、紹介していきたいと思います。


飯塚市の取り組み

 飯塚市は福岡県の中央部に位置する自治体で、平成18年(2006年)に旧飯塚市、穂波町、筑穂町、庄内町、頴田町の1市4町が合併することで誕生しました。JRの篠栗線、筑豊本線、後藤寺線の3つが通り、新飯塚駅から博多駅まで約40分、小倉駅まで約60分で向かえる交通の便の良さから福岡都市圏や北九州都市圏への通勤・通学する人たちのベッドタウンとして人気のある都市です。また全国的に銘菓として知られる「ひよ子」が生まれた、ひよ子発祥の地としても知られています。


 この飯塚市は農業やブランド牛「筑豊牛」の生産などの畜産といった、一次産業が盛んな地域でもあります。飯塚市ではこの一次産業を営む際に障害となる有害鳥獣の対処に苦慮していました。年々イノシシやシカといった有害鳥獣の駆除頭数が増えており、令和元年(2019年)度の駆除実績は1,910頭で前年度から300頭(約18%)増加するなど、負担になっていました。その一方で、市が委嘱し駆除活動に従事する捕獲員の高齢化が進み、捕獲用のわなを設置した後に捕獲されているかなどを確認する見回り作業が重くのしかかっていました。


 そこで飯塚市は令和元年(2019年)10月から、「有害鳥獣駆除対策事業」としてIoTに対応した「わな監視システム」の実証実験を開始しました。飯塚市はフランスのUnaBiz SASが提供(日本では京セラコミュニケーションシステム株式会社が提供オペレーターを務める)しているSigfox(シグフォックス)というIoT用のネットワークを導入しており、このネットワークを活用したシステムです。このシステムはわなが作動する部分にセンサーを取り付け、わなが作動した時に登録したメールアドレスへ通知が行く仕組みで、飯塚市が委嘱している捕獲員46人の内10人がこのシステムを使用しました。センサー活用前はわな1基当たりに週7回の見回りが必要でしたが、センサーを活用することで見回り回数が平均週2回に減少しました。見回り稼働数を導入前と比較してみると、センサーを活用している捕獲員が令和2年(2020年)4月から令和3年(2021年)1月末までの合計で903回も見回りが行われていましたが、活用後の令和3年(2021年)4月から令和4年(2022年)1月末までの実績は合計で273回まで見回り回数を減らすことができ、捕獲員の労力低減および捕獲活動に要する必要経費の削減を達成しました。令和5年(2023年)度予算にも有害鳥獣駆除対策事業費の一部として、有害鳥獣駆除対策わな監視システム借上料の598千円を計上しており、継続した取り組みがなされています。

まとめ

 スマート農業は、日本の地方自治体において、新たな未来への投資として位置付けられています。革新的なテクノロジーを農業に統合することで、生産性向上や地域経済の振興、環境への配慮などが実現される可能性があります。鳥獣害は動物と人間の生活圏が近づいた近年、よりその被害が顕著になっています。飯塚市のように、その対策として最新技術を用いることは、地域の農業を振興していく上でこれからより重要になると考えられるでしょう。


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執筆者 グローカル編集部

地方創生コンサルティング、SaaS/レポートサービスを通して地域活性化を支援する、グローカル株式会社の編集部。地域活性化を目指す事例や自治体・地域企業/中小企業のDX化に向けた取り組み、国の交付金・補助金の活用例を調査・研究し、ジャーナルを執筆しています。

グローカルは、国内全体・海外に展開する地方発の事業をつくり、自立的・持続的に成長する地域経済づくりに貢献します。





出典:

<飯塚市HP:令和4年第1回 飯塚市議会会議録第3号>

<京セラコミュニケーションシステム株式会社HP:Sigfoxとは>

<内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局:有害鳥獣捕獲わな監視システム>

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