はじめに
近年、日本では地震や大雨の影響による洪水などの自然災害が頻発し、その被害が年々拡大しています。そのため地方自治体では、住民の安全と社会資産の保全を最優先に考え、迅速かつ効果的な対応が求められています。こうした状況の中、ドローンの活用が地方自治体の防災活動・災害対策に新たな可能性をもたらしています。今回は宮城県仙台市を事例にドローンの防災分野・災害対策での活用の仕方について見ていきたいと思います。
仙台市での防災分野・災害対策へのドローン活用
災害に関して、東北地方には忘れることのできない苦い記憶があります。平成23年(2011年)3月11日に発生した東日本大震災です。東北地方の太平洋に面する多くの自治体で、津波による甚大な被害が発生しました。仙台市でも大きな被害が発生し、災害関連死を含めると1000人以上の市民の命が失われ、現在に至っても27人が未だに行方不明のままとなっています。また同市を含めた津波による被害を受けた自治体では、避難広報中の職員や消防団員が犠牲となる例が相次ぎ、津波発生が予測される際の避難行動呼びかけのあり方が課題となっていました。
そこで同市が導入したのが、「津波避難広報ドローン」です。このドローンにはスピーカーが搭載されており、災害発生時に津波警報などが発令されると全自動で2台のドローンが発進。避難を呼びかける音声とサイレンを流し、人の手を介すことなく避難広報を行うことができるというものです。特徴的な点としてドローンの制御に専用のLTE回線を整備することで災害発生による通信網の混乱の影響を受けることなく使用できる点が挙げられます。また自動で基地局を発信し予め決められたルートを自動で航行し、航行し終えた後も自動で基地局に帰還するため、避難広報での職員への被災リスクを限りなく抑えることが可能となります。仙台市はこの「自動運航のドローンにより津波避難広報を行うこと」および「専用のLTE通信網でドローンの制御などを行うこと」の2点において世界初の事例であるとしています。
このシステムは平成28年(2016年)に実証実験の形でスタート。内閣府・内閣官房の「未来技術社会実装事業」などの採択を受けながら、実証実験を重ね、令和3年(2021年)に日立国際電気、ノキア、ブルーイノベーション、アンデックスの4社による共同企業体(JV)に運用委託業務が入札され、令和4年(2022年)10月から本格運用が始まっています。また仙台市議会では年間3000万円ほどの維持費がかかるが、内閣府の「地方創生推進交付金」を充てることで、仙台市の持ち出しとしては2分の1の1500万円程度に抑えることが出来ているとの報告がされています。
まとめ
地方自治体の防災活動・災害対策において、ドローンの活用は大きな可能性を秘めています。仙台市のような情報発信だけでなく、迅速な被災状況の把握や危険な場所へのアクセス、情報収集・共有の効率化など、ドローンがもたらすメリットは多岐にわたります。今後、気候変動による自然災害リスクが各地で高まっていく中で災害対策は自治体の急務であると言え、今後ドローンを活用した防災・災害対策体制の構築が自治体の取り組みのトレンドとなる可能性は決して低くはないと考えられます。グローカル社では、自治体の情報を横断して一括検索できるツール「G-Finder」を活用したトレンドを見逃さない調査サービス「G-Finderレポート」を提供しています。自治体への提案や入札参加をご検討の方はお気軽にお問い合わせください。
執筆者 グローカル編集部
地方創生コンサルティング、SaaS/レポートサービスを通して地域活性化を支援する、グローカル株式会社の編集部。地域活性化を目指す事例や自治体・地域企業/中小企業のDX化に向けた取り組み、国の交付金・補助金の活用例を調査・研究し、ジャーナルを執筆しています。
グローカルは、国内全体・海外に展開する地方発の事業をつくり、自立的・持続的に成長する地域経済づくりに貢献します。
出典:
<仙台市HP:東日本大震災における本市の被害状況等>
<仙台市HP:津波避難広報ドローン事業>
<仙台市HP:仙台市公報号外(調達)第8号令和3年5月7日発行>
<仙台市HP:令和3年度 決算等審査特別委員会(第1分科会)本文>