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インフラ老朽化対策の光になるか ドローンでの下水道点検の可能性

更新日:11月17日

はじめに

 日本は世界的に見ても高度なインフラを誇る国の一つで、それらは私たちの日々の生活の基盤となっています。しかし1960年代以降の高度経済成長を背景に一気に整備されたインフラは、現代の日本社会において老朽化という問題に直面しています。毎年限られた予算でやりくりしなければならない地方自治体において老朽化したインフラの修繕・更新は悩みの種となっており、修繕の効率化が求められる状況になっています。そんな中、ドローン(無人航空機)技術の進化により、新たな解決策を模索する動きが現れています。今回は下水道の点検を事例に横浜市の取り組みについて見ていきたいと思います。


横浜市のドローンを活用した取り組み

 ご存じの通り、横浜市は日本全国でも屈指の規模を誇る自治体で、市内に敷設されている下水道の総延長は約12,000kmにも及びます。そのため、下水道の点検や修繕・更新などに関する危機感は非常に高く、ドローンについて横浜市議会平成29年(2017年)第2回定例会で林文子市長(当時)が「下水道の点検に役立てる研究を行っています。」と答弁するなど、早期から着手してきたことが分かります。


 続いて具体的な取り組み内容について見ていきます。横浜市では株式会社日水コン、株式会社雲田商会、横浜国立大学と協力してドローンを活用した下水道調査の研究を行ってきました。市販のドローンを用いた手動操作による調査は汎用性がありコストを抑えることができる一方、狭い下水管の中でドローンを操縦する非常に高い操縦能力が求められることが課題となり、また水に接する機会も考えられることから機体の防水・耐水性も求められます。そこで雲田商会が独自に管渠内点検専用のドローンを開発しました。ドローンの機体上部に車輪を設け、管の上部と車輪が接触するように操縦することで狭い管渠内での操縦も容易にすることができます。またドローンにフロートも装備することで、管内部の状況に応じて管中央部や水面を航行するような形での点検が可能になりました。


 さらにドローンと組み合わせたAIによる画像診断システムも開発しました。従来のドローンによる検査では、異常があると思しき箇所が見つかるたびにドローンが一時停止を繰り返していたため、従来の人間による検査と同程度の時間を要し、また異常判定の精度も技師の力量によって違いが出来てしまう属人的なものになってしまっていました。


 そこで異常判定支援アプリを開発。判定モデル作成から判定結果の確認までが一連の画面で行えるアプリで、AIがどのような理由で判定したのかがブラックボックス化しないよう、画像の特徴量を可視化するクラスアクティベーションマッピング(Class Activation Mapping)機能を搭載することで、元画像にヒートマップを重ねて出力した画像を判定理由として利用することが可能になりました。これらの研究を経て、横浜市では現在市内すべての水再生センターで設備工事点検用のドローンが導入されています。


まとめ

 ドローンによる下水道点検は、日本のインフラの持続的な発展に貢献する可能性を秘めています。迅速で効率的な点検、安全性の向上、データ分析による効果的な保守計画立案など、多くのメリットが期待されます。今後、多くの自治体においてドローンを活用した下水道点検が始まり、老朽化が進むインフラ群改修が急務となる地方自治体の光となる可能性があります。


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出典:

<横浜市HP:横浜市 平成29年第2回定例会 05月26日-09号>

<株式会社日水コンHP:ドローン&AIを活用した下水道管きょ調査>

<横浜市HP:下水道施設(水再生センター・ポンプ場)で大雨に備えた訓練を実施しました>

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