top of page

デジタル田園都市国家構想交付金の活用事例―奈良県奈良市




はじめに

 現在、日本全国の自治体が取り組みを進めている「デジタル田園都市国家構想」。AI(人工知能)やIoT、ドローン(無人航空機)などの最新のデジタル技術を活用して、地域ごとの魅力や特性を損なわずに利便性や住民サービスの向上を目指すものです。「デジタル田園都市国家構想交付金」制度も新たに創設され、この交付金を活用して全国の地方自治体が様々なジャンルの取り組みを進めている最中です。本ジャーナルでも、愛知県蒲郡市のICTを活用した糖尿病予防の取り組み愛知県東海市の外国人住民や聴覚に障害を抱えている市民向けに職員とのリアルタイムの会話を画面上に表示してコミュニケーションを補助する体制の構築愛知県田原市の保育園・児童クラブICTシステムの導⼊などの事例を紹介してきました。今回は奈良県奈良市の観光誘客促進に向けたCRMアプリの導⼊事業について見ていきたいと思います。



奈良市の取り組み


 奈良市は言わずと知れた奈良県の県庁所在地で県の北部に立地している自治体です。人口は令和5年(2023年)11月の時点で奈良県内最大となる約340,000人を有しています。奈良時代に平城京が置かれたことで知られており、東大寺や薬師寺、興福寺などの歴史ある仏閣が今でも数多く残っています。これらの仏閣や多くのシカが生息し国の名勝にも指定されている奈良公園などを目当てに、一年を通して国内外から数多くの観光客が訪れる、日本代表する一大観光地です。


 この奈良市ではデジタル田園都市国家構想交付金を活用して、「観光誘客促進に向けたCRMアプリの導⼊」事業を開始しました。CRMとは英語の「Customer Relationship Management」の略で、日本語では顧客関係管理と訳されます。顧客の満足度や顧客ロイヤルティの向上を通して、売上の拡大や収益性の向上を図る経営戦略を指します。今回の奈良県の事業は観光客向けに配信するアプリケーションを通して、顧客情報を収集。収集した情報を元に、リピーターの獲得などに向けたマーケティングを講じていくものになっています。


 続いて、実際の事業内容を見ていきましょう。議会議事録などの情報を総合すると、今回奈良市は市公式アプリケーション「SHIKA no ASHIATO ~鹿の足あと~」の配信を令和5年(2023年)度内にリリースします。このアプリケーションは加盟している市内の事業者の店舗などの観光地全体のオススメ情報を観光客が閲覧することが可能で、アプリに加盟している店舗を利用することでポイントが付与される機能も有しています。付与されたポイントは加盟店舗で使用できるようになっています。さらにアプリ上から教育プログラムの提案や体験型の観光コンテンツの購入が行えるような体制を構築するとしています。


 一方の運営する奈良市や加盟店舗側の機能を見てみると、まずアプリに登録される会員情報を基に消費情報などの動向を把握することができます。これらの情報に基づいて、観光客個人および地域の顧客の囲い込みを行うことが可能になります。さらにポイントを活用したキャンペーンの開催やデータに基づいて顧客ニーズを分析して商品・サービスの開発などのリピーター確保につながるマーケティング施策を講じる材料にできます。また、事業者側から店舗情報のプッシュ通知なども可能で、奈良市も事業者の売上げの増加や利益の増加につながるサポート体制の構築を検討していくとしています。


 奈良市では今回の事業にデジタル田園都市国家構想交付金から35,000千円分の採択を受けています。また令和5年(2023年)度予算にも「観光振興事務経費」として35,000千円を計上しています。令和5年(2023年)11月から奈良市のHP上でアプリケーションの告知を行っており、アプリケーションに加盟する事業者を募っています。今後、実際に配信されて、どのような成果を上げるのかに注目が集まります。



まとめ


 コロナ禍が収束したことや円安の影響もあり、日本各地の観光地に国内外から多くの観光客が訪れています。観光地間での競争が激しくなる中、周遊性の向上やリピーターの確保が急務となっています。このような状況下で奈良市のようにマーケティングに活用できる情報収集をするアプリケーションは今後さらに熱い視線が注がれていくのではないでしょうか。


 グローカル社では、自治体の情報を横断して一括検索できるツール「G-Finder」を活用したトレンドを見逃さない調査サービス「G-Finderレポート」を提供しています。自治体に関する調査や、自治体への提案・入札参加をご検討の方はお気軽にお問い合わせください。



執筆者 グローカル編集部

地方創生コンサルティング、SaaS/レポートサービスを通して地域活性化を支援する、グローカル株式会社の編集部。地域活性化を目指す事例や自治体・地域企業/中小企業のDX化に向けた取り組み、国の交付金・補助金の活用例を調査・研究し、ジャーナルを執筆しています。

グローカルは、国内全体・海外に展開する地方発の事業をつくり、自立的・持続的に成長する地域経済づくりに貢献します。






出典:

奈良市HP:【奈良市内の事業者様へ】奈良市公式アプリ「SHIKA no ASHIATO ~鹿の足あと~」の加盟店を募集します!

奈良市HP:奈良市議会議事録 令和5年5月観光文教委員会 05月11日-01号

奈良市HP:令和5年度 主な事業の要求・査定状況

内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局・内閣府地方創生推進事務局HP:デジタル田園都市国家構想交付金交付対象事業の概要 奈良県

最新記事

すべて表示

自治体のニーズに応える営業とは ~文書調査によるニーズ理解の深化~

「うちの製品やシステムを、自治体へ売りたいのだけど、なかなか・・・」と悩んでいる企業は多いのではないでしょうか。   “やみくもなターゲティング”や“物売り営業”では、受注につながらない。 “戦略的なターゲティング”や、今、それが欲しかったんだよと思われる“ニーズを先取りす...

観光・産業振興のためのeスポーツの推進ー神奈川県小田原市の取組

はじめに eスポーツ(electric sports)は、世界的に注目を集めています。近年、日本国内でも流行の兆しが見えてきており、日本のコンテンツ市場においても今後の成長産業として考えられ、様々な周辺産業への経済効果が期待されています。成長分野であるeスポーツに、小田原市...

eスポーツでいい里づくり事業ー熊本県美里町の取組事例

はじめに 近年、eスポーツは地方自治体に、子どもから高齢者まで幅広い世代に向けた健康増進や就労支援等の領域で導入が進んでいます。eスポーツとは、「エレクトリック・スポーツ」の略で、主にコンピューターゲームやビデオゲームを使った大戦をスポーツ競技としてとらえる際の名称となって...

Yorumlar


bottom of page