top of page

デジタル田園都市国家構想交付金の活用事例―長野県松本市

更新日:11月17日

はじめに

 少子高齢化による人口減少が社会問題として顕在化して久しい日本社会。この人口減少の波は特に地方部において地域社会の持続可能性が危ぶまれる事態を招くなど、深刻な影響を与えています。この波に抗おうと、日本全国の地方自治体が地方創生に向けた取り組みを進めています。政府も地方創生に向けて「デジタル田園都市国家構想」を打ち出し、新たに「デジタル田園都市国家構想交付金」を創設。地方自治体を後押ししています。本ジャーナルでは、デジタル田園都市国家構想交付金を活用して様々な事業を行っている日本全国の地方自治体を取り上げており、石川県小松市の自動運転バスの導入事例<リンク>や福井県の防災分野にドローンを役立てる事業などを紹介してきました。今回は長野県松本市の事業について見ていきたいと思います。


松本市の取り組み

 松本市は長野県の中央部に立地している自治体で、令和5年(2023年)8月時点で県庁所在地である長野市に次ぐ約240,000人の人口を誇る長野県第2の都市です。国宝にも指定されている松本城を中心に栄えてきた城下町として有名で、旧開智学校などの歴史的な建造物が数多く残る町としても知られています。また市内には穂高岳や槍ヶ岳などの名峰が点在し、日本全国や海外からも登山客が訪れています。


 この松本市では令和3年(2021年)度から始めた市民との意見交換会を通じて、より地域住民のニーズを反映した公共交通を求められたことが、令和5年(2023年)6月の松本市議会定例会で報告されています。そこで松本市はこのニーズに応えるため、デジタル田園都市国家構想交付金デジタル実装タイプ TYPE1を活用して「AIオンデマンド交通導⼊事業」に着手しました。松本市内に点在する交通空⽩地帯の解消や現在運行しているコミュニティバスの代替を⽬的としており、AIオンデマンド交通サービスを導⼊することにより、高齢者などの交通困難者の買い物や通院、⽣活に必要な地域内移動や市街地への移動⼿段を確保するとしています。さらに、時間やルートが決まっている定時定路線型のバスと異なり、乗車リクエストに基づく運⾏をすることによって運⾏効率と利⽤者の利便性向上を図ることができると期待を寄せています。


 AIオンデマンド交通は「のるーと松本」の愛称が付けられ、定員8名の乗り合いバス2台で対象エリアを運行する体制を取る予定です。運行対象となるエリアは松本市内の梓川地区・寿地区・寿台地区で、運行地域の住民向けに利用説明会が令和5年(2023年)8月中旬から始まっています。運行開始は令和5年(2023年)10月2日からを予定しており、来年令和6年(2023年)3月29日までの運行を続ける見通しとなっています。電話、専用スマートフォンアプリ、松本市公式LINEから出発地・目的地のほか、乗車人数や支払方法の指定などの利用予約をすることで最寄りの停留所まで乗り合いバスが来る仕組みで、運行時間は平日の午前9時から午後5時まで。料金は距離に関わらず一律で1回の乗車につき300円となっています。


 松本市では令和5年(2023年)度予算に「AIデマンドバス事業費」として56,190千円を計上。デジタル田園都市国家構想交付金にも同額の採択を受けています。AIオンデマンド交通システム導入の事業者を選定する公募型プロポーザルも行われ、優先契約先としてネクスト・モビリティ株式会社が選ばれました。


まとめ

 高齢化に歯止めがかからず、高齢ドライバーによる自動車事故も社会問題化している日本において、いわゆる交通弱者への対応は地方自治体の急務になっていると言えるでしょう。AIを活用したデマンド交通は定時定路線型の従来の公共交通と比較して、利用者の利便性が向上するだけでなく運行コストを抑えることも可能で、地域交通の持続可能性を高める有力なオプションになっています。今後、デジタル田園都市国家構想交付金の再公募などが行われた際には、新たに検討をする自治体が現れることが考えられるでしょう。


 グローカル社では、自治体の情報を横断して一括検索できるツール「G-Finder」を活用したトレンドを見逃さない調査サービス「G-Finderレポート」を提供しています。自治体に関する調査や、自治体への提案・入札参加をご検討の方はお気軽にお問い合わせください。



出典:

<松本市HP:松本市議会 令和5年6月定例会 06月19日-02号>

<松本市HP:松本市令和5年度当初予算一般会計予算説明書>

<松本市HP:AIオンデマンド交通「のるーと松本」>

<松本市HP:AIオンデマンドバス「のるーと松本」 利用説明会>

<内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局・内閣府地方創生推進事務局:デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ)交付対象事業の概要 分野・都道府県別(令和4年度第2次補正予算)長野県>

閲覧数:11回0件のコメント

最新記事

すべて表示

はじめに 現在、全国各地の地方自治体で取り組みが進められている「デジタル田園都市国家構想」。この構想はAI(人工知能)やIoT、ドローン(無人航空機)などのデジタル技術を活用して、地域ごとの魅力を維持しながら利便性や住民サービスの向上を目指すものです。「デジタル田園都市国家構想交付金」制度も創設され、全国の自治体で様々な事業が行われている最中です。石川県小松市の小松空港と小松駅を結ぶ自動運転バスの

はじめに 岸田政権肝いりの政策として進められている「デジタル田園都市国家構想」。AI(人工知能)やIoTなどのデジタル技術を活用して、地域それぞれの魅力を維持しながら利便性や住民サービスの向上を目指すこの取り組みに基づいて、全国各地の地方自治体で様々な事業が進められています。本ジャーナルでも、神奈川県箱根町の救急通報にスマートフォンのカメラを使って状況把握に役立てる取り組みや長野県松本市のAIを使

はじめに 安倍晋三元首相が提唱した「地方創生」の後継的な政策で、岸田文雄首相の下で推し進められている「デジタル田園都市国家構想」。この構想は、AI(人工知能)やIoT、ドローン(無人航空機)など最新のデジタル技術を駆使して地域ごとの魅力を維持しながら、利便性や住民サービスの向上を目指すものです。この構想に基づいて全国の地方自治体が様々な取り組みを進めている最中であり、「デジタル田園都市国家構想交付

bottom of page