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ウェアラブル端末を使った生活習慣ケア―広島県神石高原町の事例

更新日:11月17日

はじめに

 日本の地方自治体は、住民の健康と地域福祉を支える重要な役割が求められています。しかし、高齢化の急速な進行や食生活の変化による生活習慣病の増加などの健康に関連する課題に日本社会は直面しています。こうした課題に対処し、住民の健康維持・向上させるために、「スマートヘルスケア」という取り組みが注目されています。スマートヘルスケアとは、センサーやICTなどの先進技術を活用して医療・健康管理を試みることを指し、地方自治体から期待を寄せられています。本ジャーナルでも、愛知県豊田市神奈川県横浜市の事例について紹介してきました。今回は広島県神石高原町の取り組みについて見ていきたいと思います。


神石高原町の取り組み

 神石高原町は広島県東部に立地している自治体で、町の東側は岡山県との県境になっています。令和5年(2023年)9月の時点で、人口は約8,071人を有しています。町内の全域が標高約400~700mの高原地帯となっており、岡山県、広島県、兵庫県の3県に跨って広がる吉備高原の一部を作っています。その高原地帯が生み出す豊かな自然が特徴で、国指定の名勝「帝釈峡」などが全国的に名所として知られています。 また、ドローンを活用したまちづくりに取り組んでおり、災害時に住民がドローンによる情報収集を行う「地産地防」事業を推進するなど、最新技術を積極的に取り入れる風土がある先進的な自治体です。


 この神石高原町では、全国の中山間地域と同様に高齢化や人口減少が急速に進んでおり、これにより増大し続ける福祉・医療関連費が町財政に非常に重くのしかかっていました。また、医療・介護従事者の人手不足も深刻化しており、地域医療を守るためには病気になってから治療するのではなく、地域を上げて健康寿命の延伸や生活習慣病対策の強化による予防を重視した医療体制づくりを進めていく必要がありました。また、神石高原町のDX指針を定める、「神石高原町デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画デジタル推進基本構想」にも、「ウェアラブルデバイスによる未病データの取得と健康管理への活用」などの項目を設けて、スマートヘルスケアに取り組む方針を示していました。

そこで神石高原町が株式会社NTTドコモとタッグを組んで令和4年(2022年)12月に開始したのが、「ウェアラブル端末を活用した高齢者の生活習慣ケアのシステム構築に関する実証実験」です。この実証実験では神石高原町の町民約80人に、NTTドコモが提供する「健康マイレージ」アプリを活用し、普段住民が使用するウェアラブル端末やスマートフォンから取得できる利用履歴などの情報を収集。蓄積された情報をひろしま医療情報ネットワークと連携し、広島県内の医療機関で情報共有できるモデルの検証を実施しました。さらに、収集したデータからAI が生活習慣を推測し、今後の血圧上昇リスク・フレイルリスクを推定し、自治体の健康教室などのサービスに活用することで、住民に行動変容を促すことを狙った取り組みです。


 神石高原町では、この実証実験に令和4年(2022年)度予算で「ウェアラブル端末の実証実験」として3,000万円を計上。実証実験で判明した課題として、「端末機器の使用方法などに格差がある。電話では解決しないので、対面で対応する」と神石高原町議会で報告されたことが、令和5年(2023年)4月発行の神石高原町の議会だよりに記載されています。令和5年(2023年)度にも、継続事業としてウェアラブル端末などを活用した「デジタル技術で健康管理」事業に3,051万円を計上しており、今後も同様の事業を進めていく姿勢が分かります。


まとめ

 高齢化や医療・介護業界での人手不足が進む日本社会において、スマートヘルスケアは医療費の削減や医療・介護従事者の負担を軽減する、一筋の光明となっています。今後も高齢化に歯止めがかからないことが予想される日本社会において、スマートヘルスケアは地方自治体から熱い視線が注がれることでしょう。


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出典:

<株式会社NTTドコモ:広島県神石高原町におけるウェアラブル端末を活用した高齢者の生活習慣ケアのシステム構築に関する実証実験について>

<神石高原町HP:神石高原町デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画デジタル推進基本構想>

<神石高原町HP:ウェアラブル端末を活用した高齢者等の予防医療システム構築業務仕様書>

<神石高原町HP:神石高原町 みんなの町議会 第70号(2022年4月15日発行)>

<神石高原町HP:神石高原町みんなの町議会 第74号(2023年4月15日発行)>

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