top of page

アニメを通じた地方創生 「聖地巡礼」の形とは

更新日:11月17日

はじめに

 「聖地巡礼」という言葉を目にして、みなさんはどのような意味を思い浮かべるでしょうか。本来は宗教的に重要な地を訪れることを意味していましたが、現代日本においてはアニメや映画、ドラマなどの舞台となった場所に実際に行くことという意味合いで使われることが多くなっています。古くは週刊少年ジャンプで連載されていた「スラムダンク」がアニメ化された際に神奈川県鎌倉市内の江ノ島電鉄の踏切がオープニングに登場したことで、国内外から多くの人が訪れる観光名所化した例が知られています。


 近年では平成28年に新語・流行語大賞でトップテンには入ったことで、アニメファンだけではなく世間一般からの認知度も大きく上がり、聖地巡礼を観光コンテンツに組み込むことで観光客の入込数拡大や消費額拡大などの好影響を与える事例も多数見受けられるようになりました。今回は聖地巡礼を通じて、観光客誘致や地方創生に取り組む地域の事例について解説していきます。


聖地巡礼を活かした地域の事例

 聖地巡礼を活かして観光誘致に成功した代表事例はいくつもありますが、近年の代表例は静岡県沼津市です。平成28年から放映が始まった「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台となった同市は、市内を巡るスタンプラリー企画や登場するキャラクターが描かれたマンホールをクラウドファンディングで資金調達して設置するなど多彩な事業を展開。本来有していた駿河湾越しに富士山を見ることができる絶景スポットや伊豆三津シーパラダイスなどの観光名所も、アニメの舞台となったことで魅力の掘り起しが進みました。聖地が集中している市内内浦地区に立地する観光案内所「三の浦総合案内所」の来所者数は放映前年の平成27年度は約9000人と1万人にも満たない数字でしたが、翌年から急増。アニメ2期が終了した翌年の平成30年度には79175人と、放映前と比較すると9倍近い人が訪れるなど、顕著な効果が現れています。

 京都情報大学院大学の研究によると、アニメ放映が始まった平成28年には約414万人だった同市の観光交流客数は翌年の平成29年には約462万人を超えるなど急激に増加しているとしており、同市と居住人口の近い富士市や磐田市の同時期の観光交流客数は前年からおよそ10万人増程度でゆるやかに推移しているため、作品の舞台となったことによるものだと結論づけています。またこの研究では聖地巡礼が行われたことによる経済効果も試算しており、波及効果は約50億~60億程度になるとしています。

 この聖地巡礼に関連する補助事業を行って後押しする取り組みをしている自治体もあります。東京都では都内区市町村、観光振興団体を助成対象に「アニメ等コンテンツを活用した誘客促進事業」を行っており、アニメなどのコンテンツを観光資源として活かした「施設・構造物などの建設・改修・整備」、「情報発信」、「集客イベント」の三項目の事業に助成を行っています。鳥取県でも「まんが・アニメツーリズム推進事業」として毎年予算化されており、国内外への情報発信やまんがアニメの地域資源を活かして観光誘客の取組を行う市町村などへの補助金が交付されています。


まとめ

 アニメなどの聖地となることによってもたらされる経済効果は決して侮ることができるものではありません。アニメ・映画といったサブカルチャーのコンテンツ消費速度は非常に早く、商機やタイミングを逃さないコンテンツ展開と長期的にリピーターを獲得できるような魅力づくりの双方が重要になると言えるでしょう。そのためには先行地域・事例で蓄積されてきた取り組みの内容などの情報が必要不可欠になると考えられます。


 グローカル社では、自治体の情報を横断一括検索できるツール「G-Finder」を活用し、トレンドを見逃さない調査サービス「G-Finderレポート」を提供しています。自治体の取り組みに関する調査をご検討の方のお問い合わせはこちらから



出典:

<日本経済新聞:アニメ聖地巡礼、経済潤す 岐阜県の波及効果253億円>

<京都情報大学院大学:アニメの「聖地巡礼」による沼津市の経済効果の分析>

<東京都HP:令和5年度 アニメ等コンテンツを活用した誘客促進事業>

<鳥取県HP:令和5年度 まんが・アニメツーリズム推進事業>

閲覧数:31回0件のコメント

最新記事

すべて表示

はじめに 現在、全国各地の地方自治体で取り組みが進められている「デジタル田園都市国家構想」。この構想はAI(人工知能)やIoT、ドローン(無人航空機)などのデジタル技術を活用して、地域ごとの魅力を維持しながら利便性や住民サービスの向上を目指すものです。「デジタル田園都市国家構想交付金」制度も創設され、全国の自治体で様々な事業が行われている最中です。石川県小松市の小松空港と小松駅を結ぶ自動運転バスの

はじめに 岸田政権肝いりの政策として進められている「デジタル田園都市国家構想」。AI(人工知能)やIoTなどのデジタル技術を活用して、地域それぞれの魅力を維持しながら利便性や住民サービスの向上を目指すこの取り組みに基づいて、全国各地の地方自治体で様々な事業が進められています。本ジャーナルでも、神奈川県箱根町の救急通報にスマートフォンのカメラを使って状況把握に役立てる取り組みや長野県松本市のAIを使

はじめに 安倍晋三元首相が提唱した「地方創生」の後継的な政策で、岸田文雄首相の下で推し進められている「デジタル田園都市国家構想」。この構想は、AI(人工知能)やIoT、ドローン(無人航空機)など最新のデジタル技術を駆使して地域ごとの魅力を維持しながら、利便性や住民サービスの向上を目指すものです。この構想に基づいて全国の地方自治体が様々な取り組みを進めている最中であり、「デジタル田園都市国家構想交付

bottom of page