
はじめに
「聖地巡礼」という言葉を目にして、みなさんはどのような意味を思い浮かべるでしょうか。本来は宗教的に重要な地を訪れることを意味していましたが、現代日本においてはアニメや映画、ドラマなどの舞台となった場所に実際に行くことという意味合いで使われることが多くなっています。古くは週刊少年ジャンプで連載されていた「スラムダンク」がアニメ化された際に神奈川県鎌倉市内の江ノ島電鉄の踏切がオープニングに登場したことで、国内外から多くの人が訪れる観光名所化した例が知られています。
近年では平成28年に新語・流行語大賞でトップテンには入ったことで、アニメファンだけではなく世間一般からの認知度も大きく上がり、聖地巡礼を観光コンテンツに組み込むことで観光客の入込数拡大や消費額拡大などの好影響を与える事例も多数見受けられるようになりました。今回は聖地巡礼を通じて、観光客誘致や地方創生に取り組む地域の事例について解説していきます。
聖地巡礼を活かした地域の事例
聖地巡礼を活かして観光誘致に成功した代表事例はいくつもありますが、近年の代表例は静岡県沼津市です。平成28年から放映が始まった「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台となった同市は、市内を巡るスタンプラリー企画や登場するキャラクターが描かれたマンホールをクラウドファンディングで資金調達して設置するなど多彩な事業を展開。本来有していた駿河湾越しに富士山を見ることができる絶景スポットや伊豆三津シーパラダイスなどの観光名所も、アニメの舞台となったことで魅力の掘り起しが進みました。聖地が集中している市内内浦地区に立地する観光案内所「三の浦総合案内所」の来所者数は放映前年の平成27年度は約9000人と1万人にも満たない数字でしたが、翌年から急増。アニメ2期が終了した翌年の平成30年度には79175人と、放映前と比較すると9倍近い人が訪れるなど、顕著な効果が現れています。
京都情報大学院大学の研究によると、アニメ放映が始まった平成28年には約414万人だった同市の観光交流客数は翌年の平成29年には約462万人を超えるなど急激に増加しているとしており、同市と居住人口の近い富士市や磐田市の同時期の観光交流客数は前年からおよそ10万人増程度でゆるやかに推移しているため、作品の舞台となったことによるものだと結論づけています。またこの研究では聖地巡礼が行われたことによる経済効果も試算しており、波及効果は約50億~60億程度になるとしています。
この聖地巡礼に関連する補助事業を行って後押しする取り組みをしている自治体もあります。東京都では都内区市町村、観光振興団体を助成対象に「アニメ等コンテンツを活用した誘客促進事業」を行っており、アニメなどのコンテンツを観光資源として活かした「施設・構造物などの建設・改修・整備」、「情報発信」、「集客イベント」の三項目の事業に助成を行っています。鳥取県でも「まんが・アニメツーリズム推進事業」として毎年予算化されており、国内外への情報発信やまんがアニメの地域資源を活かして観光誘客の取組を行う市町村などへの補助金が交付されています。
まとめ
アニメなどの聖地となることによってもたらされる経済効果は決して侮ることができるものではありません。アニメ・映画といったサブカルチャーのコンテンツ消費速度は非常に早く、商機やタイミングを逃さないコンテンツ展開と長期的にリピーターを獲得できるような魅力づくりの双方が重要になると言えるでしょう。そのためには先行地域・事例で蓄積されてきた取り組みの内容などの情報が必要不可欠になると考えられます。
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執筆者 グローカル編集部
地方創生コンサルティング、SaaS/レポートサービスを通して地域活性化を支援する、グローカル株式会社の編集部。地域活性化を目指す事例や自治体・地域企業/中小企業のDX化に向けた取り組み、国の交付金・補助金の活用例を調査・研究し、ジャーナルを執筆しています。
グローカルは、国内全体・海外に展開する地方発の事業をつくり、自立的・持続的に成長する地域経済づくりに貢献します。
出典:
<日本経済新聞:アニメ聖地巡礼、経済潤す 岐阜県の波及効果253億円>
<京都情報大学院大学:アニメの「聖地巡礼」による沼津市の経済効果の分析>
<東京都HP:令和5年度 アニメ等コンテンツを活用した誘客促進事業>
<鳥取県HP:令和5年度 まんが・アニメツーリズム推進事業>