はじめに
近年、デジタル技術の進化と普及により、世界は急速にデジタルトランスフォーメーション(DX)の時代へと突入しています。DXは、デジタル技術を活用して組織や業務プロセスを変革し、効率化を図る取り組みを指します。このデジタル革命は、企業だけでなく地方自治体にも大きな可能性をもたらしています。これまでも福島県福島市や埼玉県川口市のような、AIを活用した光学文字認識機能AI-OCRやソフトウェアロボットを活用して、ルーティン的な業務プロセスを自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用したDX事例を紹介してきました。今回は東京都武蔵野市の取り組みについて見ていきたいと思います。
武蔵野市のDX化の取り組み
武蔵野市は東京都のほぼ中央に位置する自治体です。23区に隣接し、JR中央線が通るアクセスの良さから住宅都市としての一面があり、一方で吉祥寺などの商業施設が集積された商業都市としての一面も、井の頭恩賜公園などの自然豊かな一面も備える様々な魅力が詰まった都市です。
この武蔵野市で本格的にAI-OCRやRPAなどの活用が始まったのは、令和2年(2020年)の新型コロナウイルス感染拡大に対応する特別定額給付金事業を行う際でした。市民サービス向上のため、武蔵野市では迅速な給付をしたいと考えていました。また武蔵野市では、武蔵野市第六期長期計画内で「ICT の活用による業務生産性と市民サービスの向上」を掲げており、前年の令和元年(2019)度から市役所の定型化された事務作業について民間企業や自治体の先進的な事例を参考にしてRPAの試行を開始したところでした。特別定額給付金事業は対象が市内約78,000の全世帯におよび、作業量が膨大になることが想定され、武蔵野市はNTT東日本に相談をしました。大量の申請書類の受付とそのデータ入力が発生することから、AI-OCRとRPAを組み合わせて利用することがより効率的だと提案を受け、武蔵野市役所庁内で初の試みとしてAI-OCRとRPAをセットで導入し、申請情報入力の業務フローを自動化・効率化する方針が固まりました。
導入後の効果を見ていきましょう。武蔵野市によると、1 日あたりで見ると最大6,000 件、事業全体の合計だと約74,000件もの申請情報入力業務の効率化を実現し、都内でも屈指のスピードでの給付ができました。また手入力での作業とAI-OCRとRPAを活用したシステムによる作業の作業時間を比較したところ、約75%(約 43.8 日)の作業時間の削減効果が得られたとしています。
武蔵野市はこの結果を踏まえて、「AIとRPAを活用した業務改善プロジェクト」を進めるとしており、業務改善が可能な対象業務の選定した後、業務プロセスの可視化、業務フローの見直しなどを行った上でAIやRPAを活用して業務生産性の向上を進めることを目指しています。これらの方針は令和5年(2023年)度から新たに始まった武蔵野市第七次総合情報化基本計画にも明記されており、「AI・RPAの活用による業務改善の推進」としてこれからも推進していく方向性を示しています。
まとめ
地方自治体はこれからの社会において、デジタルトランスフォーメーションを進めることでより効率的で持続可能な行政運営を実現し、市民サービスの向上と地域の発展に貢献することが求められるでしょう。さらに武蔵野市のように既に導入が進んでいる自治体でも、導入する業務の拡大が検討されていることが分かります。これからもAI―OCRやRPAはDX化を進める自治体において、導入されていく技術の中心になることが考えられます。
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執筆者 グローカル編集部
地方創生コンサルティング、SaaS/レポートサービスを通して地域活性化を支援する、グローカル株式会社の編集部。地域活性化を目指す事例や自治体・地域企業/中小企業のDX化に向けた取り組み、国の交付金・補助金の活用例を調査・研究し、ジャーナルを執筆しています。
グローカルは、国内全体・海外に展開する地方発の事業をつくり、自立的・持続的に成長する地域経済づくりに貢献します。
出典:
<武蔵野市HP:特別定額給付金給付事務における AI-OCR、RPA の活用による業務効率化の実現と今後の展開>
<武蔵野市HP:武蔵野市第七次総合情報化基本計画>
<NTT東日本HP:都内屈指のスピードで特別定額給付金を給付!AI-OCR/RPAを活用し、1日最大6000件の入力業務を自動化>
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