はじめに
現代社会において、デジタル技術の進化は私たちの生活やビジネスに大きな変革をもたらしています。その中でも、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)技術を活用した「メタバース」と呼ばれる仮想のデジタル空間が、新たな可能性を模索する場として注目を浴びています。日本の地方自治体も、このメタバースの活用に取り組むことで、地域の魅力発信や地方創生を図る新たな一歩を踏み出しています。本ジャーナルでも、東京都町田市の事例などを紹介してきました。今回は奈良県宇陀市の事例に注目して、見ていきたいと思います。
宇陀市の取り組み
宇陀市は奈良県の北東部に位置し、三重県の名張市とも接する県境の自治体です。近鉄大阪線によって京都・大阪方面や名古屋・伊勢方面と結ばれており、自動車によるアクセスでも最寄りのICである名阪国道針ICと大阪・松原JCT(西名阪自動車道)間が約1時間で行き来できるため、交通の便が良いです。また宇陀市は大和高原とよばれる高原地帯に位置しており、土地利用の状況は山林が全体の72%を占め、宅地は4%弱程度のみに留まる豊かな緑が特徴的な自治体です。
この自然豊かな宇陀市では、都市部から移住を希望する人からの問い合わせが多く寄せられていました。特に新型コロナウイルスの感染拡大によって、人口の密集する都市部から離れたい人からのニーズが高まり、問い合わせが増加していました。しかし、その問い合わせの中には「人里離れた場所で農業を営みながら、古民家を300万円程度で改修して古民家カフェを開業したい」など、田舎暮らしやローカルビジネスの実態からかけ離れた問い合わせもありました。そこで、都会生活を知る「先輩移住者」である市内事業者などに直接インタビューできる機会を設けることでそのギャップを埋め、宇陀市での生活に関心を持ったり、イメージと現実のミスマッチを無くしてもらったりするようなイベントを企画しました。
そのイベントの際に、「Zoom(ズーム)」などのウェブ会議システムを使うより、メタバースを活用した方が1対多人数のセミナーのような形ではなく、多人数対多人数で合同説明会のような聞きたい人に聞きたい内容を直接聞くことができる、より双方向性の高いものができるとの発案からメタバースを活用した移住希望者向けイベント開催を決めました。
プラットフォームは伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC)が提供しているメタバース上の仮想施設「CTC Digital Base(デジタルベース)」を使用。令和4年(2022年)3月に開催されたイベントでは、昼の部・夜の部の2部制で開催し、それぞれ20人程度の参加がありました。メタバースの特長を生かすため、自己紹介や自由行動の時間を設けるよう工夫し、自己紹介の時間を設けたことで参加者が先輩移住者の仕事や移住に至った背景などの事前情報を得られたため、参加者の関心がある内容を誰に聞くべきかが明瞭になりました。イベント実施以降に、宇陀市に興味を持った参加者がSNSで宇陀市の事業者とつながるなど、イベント参加者と地域とのつながりが生まれるなどの成果が出ました。
まとめ
メタバースは、地方自治体にとって新たなチャンスをもたらすツールとなっています。地域の魅力や資源を広く発信し、地域振興や連携強化に寄与する可能性があります。宇陀市のように、「より双方向性のあるコミュニケーション方法」として活用することで、住民や移住希望者などのニーズをより細かく拾うことができるようになるでしょう。
グローカル社では、自治体の情報を横断して一括検索できるツール「g-Finder」を活用したトレンドを見逃さない調査サービス「g-Finderレポート」を提供しています。自治体に関する調査や、自治体への提案・入札参加をご検討の方はお気軽にお問い合わせください。
執筆者 グローカル編集部
地方創生コンサルティング、SaaS/レポートサービスを通して地域活性化を支援する、グローカル株式会社の編集部。地域活性化を目指す事例や自治体・地域企業/中小企業のDX化に向けた取り組み、国の交付金・補助金の活用例を調査・研究し、ジャーナルを執筆しています。
グローカルは、国内全体・海外に展開する地方発の事業をつくり、自立的・持続的に成長する地域経済づくりに貢献します。
出典:
<内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局HP:メタバースを用いた産業振興~あつまれ便利な田舎~>
<宇陀市HP:全国初!メタバースを使った移住イベント先輩移住者 QQQ の Q 開催>
Commentaires