
はじめに
日本社会が高齢化という問題に直面し、長い時間が経過しています。高齢化が深刻になる中で、高齢化がより顕著な地方では、効果的な健康振興策が求められています。そこで注目を集めているのが、「スマートヘルスケア」の取り組みです。スマートヘルスケアは、情報通信技術(ICT)やセンシングなどのデジタル技術を活用して、健康管理や医療サービスを効率的かつ質の高いものにするアプローチです。日本の地方自治体の中にはこのスマートヘルスケアを活用して、住民の健康寿命延伸などを目指す例が現れています。本ジャーナルでも、愛知県豊田市や神奈川県横浜市、大阪府堺市の事例を紹介してきました。今回は岩手県矢巾町の事例について焦点を当てていきたいと思います。
矢巾町の取り組み
矢巾町は岩手県のほぼ中央に位置する紫波郡に属する自治体です。令和5年(2023年)1月の時点で、約26,500人の人口を抱えています。北側に岩手県の県庁所在地である盛岡市を接していることから、ベッドタウンとしての開発が進んだ経緯がある町です。また一次産業が盛んな地域で、コメや麦、大豆の生産で有名です。特にコメは藩政時代に藩主への献上米として栽培されていた「徳田米」の産地としても知られています。
この矢巾町では令和3年(2021年)度から、パソコンとスマートフォンで気軽に市民が自分の精神状態をチェックすることが出来る「こころの体温計」と呼ばれるシステムを導入しています。このシステムは自身の健康状態や人間関係、住環境、職場環境などに関する計13項目の質問に回答することで、ストレス度や落ち込み度を簡単にチェックできるというものです。家族や友人などの周囲の人の精神状態を調べる「家族モード」、ホルモンバランスが変化する産後の女性向けの「赤ちゃんママモード」などの機能もあります。また、診断ページに各種相談機関の連絡先を掲載し、相談窓口へスムーズに案内する導線を構築しています。
このシステムの導入に向けた議論が始まったのは令和2年(2020年)矢巾町議会定例会12月会議で、新型コロナウイルス感染拡大の影響による外出控えでメンタルヘルスに不調をきたす人が多くなり、セルフケアの重要性が高まっていた時期でした。セルフケアには自身の精神状態を把握することが重要であるため、簡単なチェックで精神状態を把握できるシステムを導入し、多くの町民に活用してもらおうと導入したのがこころの体温計でした。こころの体温計は株式会社エフ・ビー・アイが提供しているサービスで、全国の40都道府県の自治体で導入実績があります。導入には、厚生労働省の「地域自殺対策強化交付金」を活用し、74千円の事業費を投じました。令和3年(2021年)の9月と、年度半ばでの導入になりましたが、年度中に延べ2,230人の利用がありました。
まとめ
スマートヘルスケアは、日本の地方自治体が抱える健康・医療課題に対処するための有力な手段です。ウェアラブル端末などの最新技術を活用した事例もありますが、矢巾町のようにウェブ上などから手軽にアクセスできるサービスで、簡単にセルフチェックできるような体制を構築することも必要な視点となってくるでしょう。
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執筆者 グローカル編集部
地方創生コンサルティング、SaaS/レポートサービスを通して地域活性化を支援する、グローカル株式会社の編集部。地域活性化を目指す事例や自治体・地域企業/中小企業のDX化に向けた取り組み、国の交付金・補助金の活用例を調査・研究し、ジャーナルを執筆しています。
グローカルは、国内全体・海外に展開する地方発の事業をつくり、自立的・持続的に成長する地域経済づくりに貢献します。
出典:
<矢巾町HP:『こころの体温計』でストレスチェック>
<矢巾町HP:令和2年矢巾町議会定例会12月会議議>
<総務省HP:地域社会のデジタル化に係る参考事例集【第2.0版】>
<株式会社エフ・ビー・アイHP:導入実績>