はじめに
本ジャーナルでも特集を続けている「デジタル田園都市国家構想」。この構想は、AI(人工知能)やIoT、ドローン(無人航空機)などの最新のデジタル技術を活用して、各地域の特性や魅力を維持したまま、利便性や住民サービスの向上を目指すものです。安倍晋三元首相によって推し進められた「地方創生」の後継的な政策として注目を浴び、地域活性化を目指す自治体が現在、様々な取り組みを進めている最中です。愛知県豊橋市のICT技術を使った市民の糖尿病予防の取り組みや三重県いなべ市の高齢者向け共同送迎サービスの運行管理にAIを活用したシステムを取り入れる事業、京都府京丹後市による公共施設予約システム導入など、幅広いジャンルの施策が行われています。今回は兵庫県加東市の住民の異動受付を⽀援するシステム構築事業について見ていきたいと思います。
加東市の取り組み
加東市は兵庫県中央部のやや南寄りの位置に立地している自治体で、人口は令和5年(2023年)11月の時点で約40,000人を有しています。平成18年(2006年)に旧加東郡の社町、滝野町、東条町の三町が合併することで誕生しました。現在の加東市に当たる旧加東郡福田村沢部の試験地で日本酒を生産する際に使われる酒米である「山田錦」の試験が行われていたことから、現在でも山田錦の生産が盛んに行われており、いわゆる乾杯条例である「加東市日本酒による乾杯を推進する条例」を制定するなど、酒米・日本酒と深い結びつきがある自治体として知られています。
この加東市では、デジタル田園都市国家構想交付金を活用して「異動受付⽀援システム構築業務」を開始しました。加東市では令和4年(2022年)11月に「加東市DX推進計画」を策定。この計画の中で、窓口業務について「来庁者の行政手続に関しては、窓口にてタブレット端末等に必要事項を入力する『書かない窓口』について情報を集め、整備に
向けた取組を進めます。」と記載しており、スムーズに手続きを行うことが可能な窓口の構築に向けた意向を示していました。また令和4年(2022年)12月に開かれた加東市議会第110回定例会でも、DX化の対応について市側から「令和5年度については、いわゆる『書かない窓口』への取組や今後のオンライン申請に向けたキャッシュレス決済を含めた情報収集、業務フローの整理、マイナンバーカードの利便性向上に関する検討など、行政手続のオンライン化に向けた取組や準備を進める」との発言がされており、今回の事業はかねてからの意向を国の交付金が活用できるタイミングで実現したものであることが伺えます。
続いて、具体的な取り組み内容を見ていきましょう。加東市では大きく分けて2つのシステムを導入するとしており、1つ目が「書かない窓⼝を実現するための異動受付⽀援システム」です。市民から提出される転出証明書を光学文字認識機能であるOCRで処理したり、住⺠複製データを活⽤したりすることで、従来市⺠が⼿書きで作成していた異動届をシステム上から職員が作成することが可能となります。さらに、別途で申請が必要となる国民健康保険への加入や⼦ども医療の助成などの申請書にも印字することができます。
2つ目が「スマートフォンやタブレットを活⽤した事前申請システム」です。市民が手続きに市役所名などを訪れる際に、事前にインターネット上から必要な⼿続きや行く必要がある窓⼝、当日に持参する物などを簡単に確認することができます。また、このシステム上から事前に情報を⼊⼒することでQRコードが発行され、来庁した際に申請書や届出書を⼿書きすることなく受付を済ませることができるシステムとなっています。
加東市では今回の事業にデジタル田園都市国家構想交付金から28,361千円分の採択を受けており、令和5年(2023年)度予算でも書かない窓口の導入を含む、「自治体 DX の推進」という項目に28,408千円を計上しています。また先述の加東市議会第110回定例会において、令和5年(2023年)のDX化に関する取り組みについて「AI-OCR導入とRPA利活用推進、庁内ネットワーク無線化の検証、職員の業務効率向上に向けた端末環境の検証など、令和6年度以降のDXに向けた準備を進める」との発言がされており、今後、AIを活用した文字読み取り機能であるAI-OCRやシナリオに基づいて動作するロボットが業務を自動化するRPAを活用することで、さらなる窓口の利便性向上や業務効率化を推進する可能性を示唆しています。
まとめ
書かない窓口をはじめとする窓口DXは、先進的な事例として知られる北海道北見市などが有名ですが、加東市と同様にデジタル田園都市国家構想交付金を活用して着手した静岡県伊豆の国市のように、今なお後発組の自治体から高いニーズのある分野です。これらのソリューションを提供している企業は、今回の加東市のように計画や議会議事録で意向を示している自治体のような隠れたニーズを拾い集めていくことで、自治体からの案件受注に繋げていくことができるのではないでしょうか。
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執筆者 グローカル編集部
地方創生コンサルティング、SaaS/レポートサービスを通して地域活性化を支援する、グローカル株式会社の編集部。地域活性化を目指す事例や自治体・地域企業/中小企業のDX化に向けた取り組み、国の交付金・補助金の活用例を調査・研究し、ジャーナルを執筆しています。
グローカルは、国内全体・海外に展開する地方発の事業をつくり、自立的・持続的に成長する地域経済づくりに貢献します。
出典:
加東市HP:加東市 令和4年12月 第110回定例会 12月16日-03号
加東市HP:令和5年度加東市予算
内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局・内閣府地方創生推進事務局HP:デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ)交付対象事業の概要 分野・都道府県別(令和4年度第2次補正予算)兵庫県